藤子F不二雄 異色短編集が面白い

藤子F不二雄の異色短編集を読んだ。
すごく面白くて、久しぶりに時間を忘れて漫画に没入してしまった。

特に面白いと思ったのは、まさに今現在を未来として予想したものがあること。
例えば、「定年退食」という話では、食事は配給制で、定年すると配給はおろか、医療保障も受けられなくなる、というお話。
これは少子化がもたらす未来を予想したものだろうが、藤子F不二雄の予想と現在とが実に対照的なのだ。

このSFの中では、老人たちは若者に駆逐されて、居場所を失う、という状況になっている。
なぜなら、この未来では老人を養うのに必要なコストを若者1人につき3人弱分を負担しなければならないため、結果的に養える人数が決まってしまうからだ。
その人数を越えた者については、国は責任を持たない。首相は「国家存続のため、冷徹な判断が必要である」と言い、苦渋の決断ながら、そうせざるをえない状況へ国民の理解を求めている。

対する、現実はどうだろうか。
現在では少子化のため、若者一人につき老人1.27人分を負担している計算になるらしい。前提となる状況は、「定年退食」に限りなく近づきつつある。
しかし、このSFの中とは逆に、現実では政治・経済共に老人が幅を利かせており、若者の意見はほとんど国政に反映されていない。
その上「国家存続のため、冷徹な判断」ができるような政治家も、政党も見当たらない。

この作品に限ったことではないが、藤子F不二雄は、無意識のうちに「国家権力は冷血だが、未来のために概ね正しい判断をする」という定義をしていることがわかる。
しかし現実には、未来のことを考えて判断できるだけの能力を、もはや国家権力自身が失ってしまっている。
「正しい判断ができない」・・・これこそが、現代日本にとっての悲喜劇である。そして、この「国家権力」の違いこそが、SFと現実の差となっているのだ。

それ以外にも、「劇画オバQ」「箱舟はいっぱい」など、ラディカルな作品が目白押しで、退屈しない。
未読のSFファンにはぜひともおすすめしたい。

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